「そういうわけで、わっしの所へ頼みに来なすったのですが……」と、幸次郎は取りなすように云った。「わっし一人で請け合うわけにゃあ行かねえ。まして江戸から五里七里と踏み出す仕事だから、親分にすがって何とかして貰おうと云うので、こうして一緒に出て来たのですが、どうでしょう、なんとかなりますめえか。番頭さんもひどく心配していなさるんですが……」 「若い者では無し、いい年をしたわたくしが供をして参りまして、おかみさんの姿を見失ったと申しては、主人は勿論、世間に対しても申し訳がございません。これがお武家ならば、腹でも切らなければならない処でございます。親分さん。お察しください」 四十男の治兵衛が涙をうかべて頼むのである。殊に幸次郎の口添えもある以上、半七も断わるわけにも行かなくなった。 「まあ、ようござんす。出来ることか出来ないことか知りませんが、折角のお頼みですから、なんとかやってみましょう」と、半七は請け合った。「おい、幸。この春、初めて府中へ行ったのも、何かの因縁かも知れねえ」 「そうですねえ」と、幸次郎もうなずいた。「そこで、親分。この番頭さんに何か訊いて置くことはありませんかえ」個別指導 早慶個別スクール 塾長ブログs朝日新聞デジタル:同時進行 受験家族一覧 - 小中高 - 教育
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